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ぽちぽちと携帯で打ってたなんじゃこりゃ、な文章。
リハビリリハビリ。
喫煙カカシです。
しばらく完全に文章から離れていたのでほんっとにいろんな意味でリハビリ。出来上がってみたらいつもどおりな感じで面白くもなんともないです。
それでもよろしければ。
鼻を擽る紫煙の匂いに目が覚める。
俯せの身体に残るのは倦怠感。わずかに目を上げた薄暗い視界で細い糸の様な煙がゆっくりと流れていく。
視線を転じて捉えた、わずかに差し込む街明かりが浮かび上がらせる白い背中。それはほんの少し前、淡く紅潮し汗ばんでいたのが嘘のようにさらりと乾いて見えた。
立てたはずの爪の跡すらそこには見当たらない。
「煙草、吸うんですね」
音にしてみたら酷く掠れた声しかでなかった。男に散々喘がされたからだ。
そして応えはなかった。その背中が物言いたげに見えるわけでもない。
「別に責めるつもりはありませんよ。ちょっと意外に思っただけで」
何となく収まりがつかなくて言うだけ言ってみる。
痕跡の残りやすい煙草を避ける忍びは多い。いつもきっちり顔半分を口布で覆い、手甲を外すこともない上忍ならば尚更ではないのか、という気がしただけだ。
会話にもならない不毛。吸い終わったらとっとと出ていって欲しい。
言葉にはしない意思を示したくて背中を向けようとしたその時、男の背中が揺れ、男が吐き出す煙が不規則に部屋に拡散する。
男が笑ったようだった。
「俺も意外でしたよ。男に慣れてんですか、イルカ先生」
「……俺はしがない中忍ですから」
暫しの沈黙の後、イルカは答えた。
「……それ、答えにならないでしょ」
そう。果たしてそれは答えとしては正しくはないのだろう。
身体を開けと強要された数度の経験しかないこの身体をこの男がどう捉えたかは知らないが、いちいち弁解する気にはなれない。いずれの時も四肢の自由を奪われたわけではなかったから逃れることが不可能だったわけではない。自分で選んで来たのだ。
一片の情も存在しない行為。嫌悪を催す皮膚感覚。だがそれですら後から思えば人肌というのは温かいものだった。そんな風に感じてしまう自分は相当に救えない奴だ、とイルカは思う。
そして知ってしまった
この男から与えられた視線や声、触れ合った肌の温もり、そのくせ冷たい指先、身体に注がれた体液、それから冷笑までもが自分を高ぶらせるものだということを。
ありえないのに、とイルカは思う。
久しく他人と肌を触れ合わせることがなかった反動か。
ならばかまわない。そのうちにこのわけのわからない感情が過ぎ去るのを待てばいいのだから。
「なんでかな……たまには欲しくなることもあるんじゃない? ま、気持ちの切り替えにはちょうどいいよね」
イルカの問い掛けに、律儀に応える男の言葉はまるで人事のようで。
「何て言うか、義務感に駆られたセックスの後、みたいな感じですか」
そうだ。さっきから胸の奥に澱んだように居座る気持ちの正体はこれなのだ。「そういう」雰囲気に引き込んだのはそっちのくせにまるで一仕事終えた後の安堵がそうさせているように見えたのだ。
そして多分それが心をひっかいているのだ。
そして今もまた胸が何かに引っかかれたような妙な音を立てている。
なんの感傷だよ。
己の思考を厭わしく思うイルカの視線の先で、男は眠たげな目をわずかに見開き、それから喉の奥でくつくつと笑った。
「もしかしてあなたがそう感じてんですか。今も吸いたい? 吸いますか? 」
「違いますっ俺は別に……」
喫煙の習慣などないのだから、閨の後に仮に何かを意識したとしてもそんな欲求は起こりようがない。
無機になるイルカに男はすっと目を眇め、視線をそらす。それから再び煙を吸い、そして吐き出した。
「それはあなたの被害妄想。逆ですよ 」
イルカは薄く笑っているらしい男の斜め後ろから見える頬の稜線を見上げた。
逆とはいったいどういう意味なのか。自分の言葉のどこを指すのか。
男の言葉の意味は頭の中で形を成しかけ、だが途中で男が部屋に撒いた煙のように見えなくなってしまった。
多分自分は何かを怖がっているのだ、という自覚はあった。
「なんのことですか」
振り向いた男はなお楽しげにその色違いの双眼を細め、ゆらりと立ち上る煙を指先で消し去った。
「わかんないならいいですよ」
言い置いて男は立ち上がる。
白い指先から潰れた煙草がくずかごに放られるのを見届けて、今度こそイルカは男に背を向けた。
やめてくれ。匂いが残っちまう 。
たとえそれが印象にそぐわなくても、男を喚起させる何をも感じたくはなかった。
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